理事長ご挨拶

新型コロナウイルスパンデミックから3年経過し、ようやく感染も終息を見通せるようになりました。5月には感染症法上の位置づけが5類に変更され、コロナ前の社会経済活動を取り戻しつつあります。JWセンターは、このような状況を踏まえ、細心の注意を払いつつも、コロナ前の体制に戻していきたいと考えています。

JWセンターの主要事業である講習会事業はこの3年間、感染予防を徹底するため、会場での講義を中止し、オンラインでの講義動画視聴と会場試験を組み合わせた方式で実施してきました。受講者の意向を確認したところ、学習時間を柔軟に選択できる等のオンラインならではのメリットを感じている方が多く、7~8割の方が将来ともオンライン方式が良いとの結果になりました。このため今年度は、コロナの態様の変化と受講者の意向を踏まえ、オンライン方式を中心としつつ、1割程度は対面式で実施いたします。排出事業者向けの研修会は、コロナ禍で中止していましたが、2022年度に双方向型のライブ配信で再開しました。これまでは大都市で対面での実施でしたが、オンラインとしたことで地方都市の方も多数参加いただくことができました。研修会は、今後ともオンラインで実施していく予定です。

講習会の受講者は、コロナ禍の混乱の中で一時的に大幅に減少しましたが、2021年度以降はコロナ前の水準に戻り、年間5万人以上の皆様にご利用いただいています。また、講習会の申し込みシステムを刷新するなど受講者の利便性の向上に努めています。今後とも受講者ファーストの観点から講習会・研修会を運営してまいります。

もう一つの主要事業である電子マニフェスト事業は、社会全体のデジタル化の推進の追い風を受け、順調に拡大しています。昨年度1年間の電子化率は77%となりました。2018年6月に閣議決定された第四次循環型社会形成推進基本計画では、2022年度までに電子化率を70%にするとの目標が掲げられていますが、この目標を大幅に前倒しで達成したことになります。今後とも、利便性の高い電子マニフェストシステムの運営に努めてまいります。

電子マニフェストは、産業廃棄物の適正処理を確保するための措置として導入されましたが、その利用は年々拡大し、今や年間3,850万件もの産業廃棄物排出・処理データが電子的に蓄積されています。これらの産業廃棄物に係るビッグデータは、有効に利活用することで循環型社会の形成を推進するツールになります。JWセンターでは、環境省の協力のもと、電子マニフェストのビッグデータを本格的に解析するソフトウエア(電子マニフェストBIツール)を導入し、2022年2月には都道府県・政令市で電子マニフェストBIツールを利用できる環境を整えました。

循環型社会形成の推進には、地域ごとに循環資源の動態を把握し、きめ細かな施策を展開することが重要です。現行の電子マニフェストには、処分の方法や処分後の再資源化物等の量は登録されていません。これらの項目が登録されるようになれば、廃棄物に係る資源循環の態様が地域ごとにも全国的にもリアルタイムに近い状態で把握できるようになり、循環型社会の形成、ひいては循環経済への転換に大きく貢献できます。このため、JWセンターでは処分方法等のマニフェスト項目への追加や電子マニフェスト上で簡便に操作できるシステムの開発の検討を進めているところです。

2050年脱炭素やロシアの侵略で勃発したウクライナ戦争を契機とした資源安全保障の観点から、産業廃棄物の中でも相当量を占めているバイオマス廃棄物の資源化が、ますます重要になっています。JWセンターでは昨夏より、家畜ふん尿の処理の実態調査を中心にこの分野の調査を進めており、資源循環の推進に貢献したいと考えています。

ウクライナ戦争で世界のエネルギー情勢はひっ迫しているものの、2050年脱炭素に向けた取り組みを前進させることが求められています。その一環として、廃棄物分野は資源循環をいっそう加速させることが不可欠です。排出事業者である企業は、ESG投資が主流となる中で、市場から評価されるために、環境への取組等に関する非財務情報を開示することが世界的にも当然になりつつあります。一昨年秋のCOP26の後で設立されたISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は開示情報の統一化を図る検討を進め、今年早々にも決定すると言われています。その中には、企業の直接的な温室効果ガス排出量に加え、原材料の調達、輸送、製造した製品の利用や廃棄に伴う排出量(いわゆるScope3排出量)の開示も求められる見込みです。バージン資源を再生資源で代替できれば、ほとんどの場合で温室効果ガスの低減につながります。人類共通の最大の脅威である地球温暖化に適切に対応する企業が市場で評価され、企業価値が高まり発展する時代です。資源循環を担う廃棄物処理業者は、再資源化の程度や内容によって顧客である排出事業者から選別される時代になっていくのかもしれません。

JWセンターは、社会が大きく変化する時期にあって、時代の要請に応えて、設立の目的である産業廃棄物の適正処理と循環型社会の形成推進に資する事業をさらに充実・発展させてまいります。今後とも皆様のご指導、ご鞭撻をお願いいたします。

2023年4月
公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター
理事長 関 荘一郎

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